こんにちは。岡田智則です。
今回は、バロック時代における器楽の発展について解説していきます。
器楽の自立
16世紀初頭、フランスの宮廷にフランドルから優れた作曲家が到来し、シャンソンという世俗合唱を作り上げ、16世紀中頃にフランスからイタリアの宮廷にも広がっていきました。
しかし、当時のイタリア人はシャンソンの歌詞、すなわちフランス語を理解することができませんでした。
そこで、イタリア人たちは、リュートや鍵盤楽器を用いて楽器用の音楽に編曲する形で楽しまれるようになります。この編曲した楽曲をカンツォーナ・フランチェーゼといいます。さらに、16世紀後半になってくると、フランスのシャンソンのみならず、フロットラやマドリガーレなどのあらゆる声楽曲が、器楽ように編曲され楽しまれるようになっていきます。フランスの歌ではないこれらの編曲された器楽曲をカンツォーネ・ダ・ソナールといいます。←必ず暗記
楽器の音楽は、このように歌曲の編曲から生まれたのです。
この過程を経て、モンテベルディは、声楽と楽器が混合していても、楽器が使用されている音楽をソナタ(器楽)と考えました。そこから声楽の手法に倣って、器楽のための楽曲としてグレゴリオ聖歌を基に作曲をしていきます。それが『聖母マリアのソナタ』です。
この頃、ビオール属にバイオリンが誕生してきます。ガスパロ・ダ・サロ、マジーニ、アマーティ、ストラディバリ、ガルネリをはじめとする職人が優れた弦楽器を生み出し、多くのビルトゥオーゾが輩出してきます。
17世紀に入ると、器楽も声楽曲から自立するようになり、歌われる音楽と奏される音楽に区別され、声楽曲全般をカンタータ、器楽全般をソナタと呼ばれるようになっていきます。
教会ソナタと室内ソナタ
教会で行われるミサや聖務日課の際に、17世紀中頃から室内楽の演奏が加われるようになってきます。その音楽を教会ソナタといいます。
この分野で大きな功績を残したのがコレルリです。
コレルリは、2台のバイオリンとバッソコンティヌオ(通奏低音)を受け持つ低弦楽器あるいは鍵盤楽器(教会の場合は主にオルガン)の3つ声部からなるトリオ・ソナタと呼ばれる形態を確立し、緩-急-緩-急の4部構成の音楽を作り上げました。←必ず暗記
第1部は2拍子中心の模倣的あるいはホモフォニックな音楽で、第2部は自由なフーガ形式、第3部はサラバンド風のホモフォニック、第4部は舞曲の要素を持ったフーガ的書法で構成されています。←必ず暗記
こうして完成した教会ソナタは、貴族にも大きな影響を与え、貴族の館でも器楽曲が作曲されるようになります。それが室内ソナタです。主に、晩酌のためのBGM(ターフェルムジーク)や舞踏曲の演奏として用いられました。
室内ソナタの構成は、同一調による3〜4曲の舞曲集で「アルマンド-クラント-ジグ」や「アルマンド-サラバンド-ガヴォット」が比較的多く見られましたが、基本的には一定の形式を持っているとは言えません。演奏形態も教会ソナタと同じではありましたが、鍵盤楽器にはチェンバロが使われていました。
古典組曲
17世紀後半、貴族の間で流行した室内ソナタは、18世紀に入る頃から「アルマンド-クラント-サラバンド-ジグ」の4つで構成されるようになります。これを古典組曲といいます。
ただし、この4つの舞曲だけでは、画一化されてしまうため、サラバンドとジグの間にメヌエットやガヴォット、ブーレといった舞曲や、舞曲以外のマルシェやエールなどの音楽を挿入したり、対となる同じ舞曲を2つ並べたり、様々な工夫がなされました。
また舞曲の連続の前には、前奏曲(プレリュード)やシンフォニアやトッカータを置いたりもしました。
最終的に古典組曲は「1,前奏曲(プレリュードやオーバチュア) 2,アルマンド 3,クラント 4,サラバンド 5,メヌエット、ガヴォット、ポロネーズ、エアーなど 6,ジグ」という形に様式化されます。←必ず暗記
この古典組曲の様式化に大きく貢献したのがバッハです。
バッハは、『フランス組曲』や『イギリス組曲』、6曲の『パルティータ』といったチェンバロのための組曲や、6曲の『無伴奏チェロ組曲』、3曲の『無伴奏バイオリンのためのパルティータ』などの弦楽器の組曲、4曲の『管弦楽組曲』といった多くの古典組曲を作曲しました。実際バッハの組曲は、高度に様式化されて、実際に舞踏を行うことができず、舞曲の芸術化を見ることができます。
合奏協奏曲
16世紀末、ヴェネツィアで展開された、左右の合唱隊による複合唱形式(二十合唱)は、次第に個々の合唱と全体合唱による「弱と強の音楽の対比」へと移行されました。これを協奏形式と言います。
ところが、この形式は17世紀中盤頃になると弦楽アンサンブルに限られるようになってきます。
弱の音楽にはソリストが置かれ、そのソロ群をコンチェルティーのと呼ばれる一方、全体合奏による強の音楽をコンチェルト・グロッソと呼ばれます。現代では、弱と強の対比による音楽を総称してコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)と呼ばれています。←必ず暗記
演奏形態は、コンチェルティーノがヴァイオリン2人、チェロが1人。コンチェルト・グロッソが第1バイオリンが4人、第2バイオリンが4人、ビオラが2人、チェロが2人及び鍵盤楽器による通奏低音でした。←必ず暗記
試験対策(例題と模範解答)
以下の用語について記述せよ
ソナタ | 16世紀中頃にイタリアに伝わったフランスのシャンソンは、歌手の意味を理解することができず、リュートや鍵盤楽器を用いて楽器用の音楽に編曲する形で楽しまれるようになる。シャンソンを編曲したものをカンツォーナ・フランチェーゼや、当時イタリアにあったフロットラやマドリガーレなどの声楽曲の編曲されたカンツォーネ・ダ・ソナールが楽しまれ、歌われる音楽と奏される音楽に区別されるようになり、奏される音楽をソナタという。 |
教会ソナタ | 教会で行われるミサや聖務日課の際に、17世紀中頃から室内楽の演奏が加われるようになり、その器楽曲を教会ソナタという。緩-急-緩-急の4部構成の音楽で、編成は、2台のバイオリンとバッソコンティヌオ(通奏低音)を受け持つ低弦楽器あるいは鍵盤楽器の3つ声部からなるトリオ・ソナタと呼ばれる形態を持つ。 |
室内ソナタ | 17世紀中頃に確立された教会ソナタは、貴族にも大きな影響を与え、主に晩酌のためのBGM(や舞踏曲の演奏として用いらた。これを室内ソナタという。構成は、同一調による3〜4曲の舞曲集で「アルマンド-クラント-ジグ」や「アルマンド-サラバンド-ガヴォット」が比較的多く見られたが一定の形式は持っていなかった。 |
トリオ・ソナタ | 17世紀中頃に確立された教会ソナタに由来する当時の室内楽は、音域と性格の類似した2つの独奏楽器と通奏低音によって演奏されていた。その3声部からなる室内楽をトリオ・ソナタと呼ばれる。 |
独奏ソナタ | バロック音楽の特徴の1つは、2つの音響の掛け合いである。18世紀になると教会ソナタは市役所や大学などでも演奏されるようになり、その際に、1つの楽器と通奏低音のチェンバロによるソナタが登場した。このソナタを独奏ソナタと言い、古典派移行のソナタの原型になっていった。当初の楽曲構成は、緩-急-緩-急の4楽章構成で、独奏ソナタの誕生により、ソナタとは対照的な複数楽章からなる器楽曲を意味するようになっていく。 |
無伴奏ソナタ | 18世紀第2四半期に誕生した独奏ソナタから、チェンバロを省き、1台の楽器で2つの旋律の掛け合いと、通奏低音の和声機能を果たすソナタが誕生した。これを無伴奏ソナタという。曲の構成は、緩-急-緩-急の4楽章構成と独奏ソナタと変わりはない。 |
バッソ・コンティヌオ | バロック期のほとんどの音楽に用いられた通奏低音は、楽曲を通じて基本的に終始演奏され続けることで基本構造を表している。またその記譜は、本来低音旋律だけで、演奏の際に奏者が和声を具現化していく。その和音を明確にするため、作曲家は音符の下に音程を示す数字付き低音をつけていた。 |
古典組曲 | 17世紀後半に貴族の間で流行した室内ソナタは、18世紀に入る頃から、アルマンド-クラント-サラバンド-ジグの4つで構成されるようになり、これを古典組曲という。しかし、この4つの舞曲だけでは、画一化されてしまうため、サラバンドとジグの間にメヌエットやガヴォット、ブーレといった舞曲や、舞曲以外のマルシェやエールなどの音楽を挿入したり、対となる同じ舞曲を2つ並べたり、また舞曲の連続の前には、前奏曲(プレリュード)やシンフォニアやトッカータを置かれたりして、様式されていった。 |
コンチェルト・グロッソもしくは合奏協奏曲 | 16世紀末、ヴェネツィアで展開された複合唱形式は、ここの合唱と全体合唱にへと移行し、弱と強の対比による音楽として発展。これを協奏形式という。17世紀中頃になると、弦楽アンサンブルに限られ、弱の音楽としてソリストが置かれ、そのソロ群をコンチェルティーノ、全体合奏をコンチェルト・グロッソという。演奏形態は、コンチェルティーノがヴァイオリン2人、チェロが1人。コンチェルト・グロッソが第1バイオリンが4人、第2バイオリンが4人、ビオラが2人、チェロが2人及び鍵盤楽器による通奏低音だった。 |
オラトリオ | 16世紀中頃に、ローマで活動していたネーリによって基盤が作られた。当初は祈祷所(オラトリウム)の集会で多声化されたラウダを複数つなぐことで対話的構想を生み出し、そこに物語性が付与された芸術が誕生した。その音楽は、生まれた場所の名前に由来しオラトリオと呼ばれた。オラトリオは、扱われる出来事がキリスト教に関する事柄に限られ、教会で演奏された。オラトリオはイタリアで発展し、18世紀にはドイツとイギリスが中心となっている。 |
受難曲 | オラトリオではキリスト教の出来事が題材となり、その中でも中心となる事柄がイエスの受難で新約聖書の4つの福音書の記述を基に作られたオラトリオを受難曲という。マタイ受難曲、ヨハネ受難曲、マルコ受難曲、ルカ受難曲の4つが存在し、中でもマタイとヨハネによるものが多いのは、前者は、叙事的広がりと劇的な物語に富んんでいること、後者は簡潔ながらも緊迫した場面が連鎖をなしていることに起因する。 |
カンタータ | 17世紀前半、オペラとオラトリオを除く声楽全般をカンタータと呼ばれていた。それは、イタリアの世俗的室内声楽曲だったが、次第に宗教題材のものが見られるようになり、大きな形態を必要とするオラトリオや受難曲などの縮小版へと発展していった。18世紀になるとカンタータはドイツで展開され、そこでは宗教的な教会カンタータが中心となった。 |
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